ありのままの小説
あーやのお部屋最高ランク : 1 , 更新: 2023/05/09 10:24:37
お久な投稿
同年代に私の小説よんでもらいたくて、やっぱり本垢でも投稿することにした。
サムネは最近のお絵描き
ってことでどーぞ!
わ
ん
く
しょ
ん
・
「ねぇ、出さないの?、それ、」
公園のブランコでアナタは言う。
「私の言葉ってなんか、響かない気がしてさ」
ぎぃぎぃと音を立てて、ブランコは揺れる。
ひとりは制服に身を包み、もうひとりは未だにスウェットのまま、だらしなく。
「本を大切にしてるからこそ、自分の手で書くとどうしようもなく内容がないような気がするんだ。自分のこととか、人生に自信がないとなんだか、表現まで廃れてる。」
それ、だしゃれ?なんて、苦笑いしながら、アナタはブランコを漕いでいる。なわけないでしょとすぐに冷たく振り払う。
「だいたい、表現は人生を表してるんだから、コンテストに出して、順位つけられたくないし、」
私は原稿用紙をこれでもかと、くしゃくしゃに丸めた。
何回やっても私は。
なんだか、情けなくなって目を擦った。ブランコより少し遠くにある大きめの水溜まりに原稿用紙を放り込んだ。じわっと茶色の液に染まって、思わず顔が歪む。
私の人生も茶色くて廃れててくしゃくしゃだな。案外、お似合いかもしれない。心は叫んでいるのに、私はずっと見ないふりをして。逃げないと、自分の内を気づきたくなかった。
「わ、もったいなー、あーあ、私あなたの書く表現、いい意味で人間らしくして好きだったのに」
文字も見えなくなった原稿用紙を友達は手で拾い上げた。
「完璧な人間が書いたら、こんな表現でないよ、苦労してるし、時にはたくさん泣いたからいろんな話が描けるんだから、廃れてなんかないし、なんなら、少々廃れぎみのほうが良いわ」
アナタの鞄からは私がいろんなところに捨てた原稿が出てくる。さすがにべちょべちょになった原稿用紙は拾わないと思ってたのにな。
「今回のは素敵ね。相変わらず、枠から出られてないけどさ、」
さっきまで茶色に染まっていた原稿用紙は薄黄色に戻っている。
「えっ?」
「ねぇ、あなた今回のほんとに出さないの?なんでも良いけど、出してみれば良いのに」
アナタは綺麗に戻った原稿を差し出してきたが、その手をはたき、ブランコに座った。横を見れば、また、スクールバックに原稿をしまっている。
それにしても今回はやけにしつこい。
いつもだったら、あーあー、ひどいなー、せっかく書いた原稿さん泣いてるなー
とわざとらしく言うだけで干渉してこないのに。コンテストに間に合わなくなりそうだからということか、今回のは前のよりよかったということか。ブランコはいきなりふわりと大きく揺れた。
「ワタシ、いなくなったほうがいい?」
はっ、としてみると、まわりは騒がしくなっている。雨がやんだからか、近所の子供が遊んでいた。隣にはいたはずのアナタはいない。まず、あの人誰なのか、わからなかった。きっと、絶対に知った人。じゃないとあんなに素で話せないから。
でも、どこで知り合った人か全く思い出せない。本気で思い出そうとするけれど、思い当たった人はいなかった。
まぁ、考えたところでどうにかなるもんでもない。私のスペースにずかずかと入り込んでくるところはそんなに好きじゃないけれど、私と話してくれるだけでも幸せだった。
寂しげなブランコの揺れは止まっている。
今日は私の相棒のトンネル滑り台でも題材に小説描こうかな。keep outのガムテープが貼られているトンネル滑り台には誰も寄りつかない。危険なのに、取り壊しができるほどのお金がないらしい。所詮、田舎である。
この世界の隅のほうで頑張っている私となんだか似ていて、愛着がわいていた。だからか、トンネル滑り台の中で小説を書いているときだけは自分をさらけ出せた。
自分の表現や物語に身を委ねて、まるで魔法使いになったみたいに、自由自在に操る。いつの間にか、書き始めて2時間経っているというのもざらだった。
でも読み返すと、腐っていて、どこか曲がった人間味が伺える小説になっている。幾度も幾度も、鉛筆が短くなるまで書いても、納得もうれしさもなにも感じない文章になってしまう。
「ねぇ!ねぇてば!!」
「わっ、」
また、アナタと話して。
「あなたさー、小説の中でも小説かいてんのね、とらわれすぎでしょ!」
なぜか、姿は見えない。
今日もまたビリビリに破いて投げ捨てた。とらわれすぎってところになぜか苛立ちを感じて私は切り裂くように叫んだ。
「小説にとらわれて何が悪いの!小説の中で夢しか見れない愚か者だよ!だいたい、私のスペースを脅かしてきてアナタいったい誰?」
まわりは静かだ。
「え...」
いつもだったら、拾われて、原稿用紙は綺麗に戻るのに、今日はびりびりのままだった。飛ばされかけた原稿用紙をなぜか、私は拾った。
風でそやそやとブランコが揺れていた。乗り終わりそのまま置いてかれて、なぜか寂しそうに見えた。まわりの子供は不思議そうに、子供の親たちは怪訝そうにこちらを見た。
それから、何日経ってもあのブランコでふと、しゃべっていることはなかった。不思議な現象もなくなった。ただ、時間は過ぎた。
だいぶ、日が短くなってきたと感じるのも、アナタに囚われていたからだろうか。ただ、鉛筆を滑らせて、今日も小説に逃げた。
ふと、びりびりのまま置いていかれてしまった原稿用紙を見る。
いつもだったら、一度読み返したらおぞましいほどこびりついて頭から離れないのに、なぜかアナタが消えてしまったときに描いた話はどんなことを書いたのか何一つ思い出せない。少し気になって、びりびりの原稿用紙をひとつひとつ並べた。案外読める状態にはなった。
その話には制服の女の子が出てきていなかった。
ふと、思い返せば、全部私が見たものや体験したこと、私のことを美化して小説に書いていた。だから、私は学校に行っている自分が美しいと思い込み、制服姿の私が主人公だった。見るのもいやな制服姿の女子高生がいつもいつも、書く小説の中にはいた。
だが、あの日書いた話は制服姿の女子高生は出てきていなかった。唯一、素敵な理想の女子高生を書いていなかった。アナタは私が書いた小説の中のワタシだった。
はっとして、私は急いで原稿用紙に鉛筆を滑らせた。いつもは何かしら考えながら、書くけれどその時は死に物狂いだった。
「ねぇ!」
「ねぇてば!!」
気づけば、ブランコだった。ブランコは今日も揺れている。
「喧嘩しちゃったし、私のこと書かなくなっちゃった」
アナタはどこか寂しそうに、それでいて少しうれしそうな顔をした。
「どうして....?」
私はなんでうれしそうなのかわからなかった。今日は小説を、いつもより字が汚い原稿を、しっかりと手に握っている。
「ワタシがいなくなる代わりにさ、自分らしく囚われないで生きなよ、制服姿じゃなくたって、学校に行けなくなってたって、あなたじゃんさ、?消えちゃうからさ、最後のお願い聞いてよ!」
「待って、」
自分の心の内に一気に引き込まれて、私は不安になった。
「ワタシのいないあのビリビリの小説、あなたらしくて一番大好きだから、憎いけどそれ、コンテスト出して?さよなら!」
ふわりと風が頬を撫でた。ビリビリの原稿はもう元に戻っている。アナタはすぐに消えてしまった。けれど、涙脆いとこは一緒で、消えたとききらりと光が落ちた。ブランコの下の砂にひとつ染みを残した。
その時から、不思議と、自分の小説が少し綺麗だと感じた。ありのままの自分を感じて、読むのが楽しくなった。消印日ぎりぎりで出せた小説はもはや奇跡だった。
直前まで悩みに悩んでやけに赤いポストを睨み付け、前でたたずんでいたが、さすがに回収に来た人にちろっと見られて、
「それ!預かりますね!」
って言われてしまったら、出すしかないだろう。
アナタのいない小説はコンテストで特別賞を受賞した。
「順位に囚われてない、あなたらしいじゃない。」
本当にもう、アナタはいない。
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しゃべるのめんどいけどしゃべるよーん
2023/05/28 1:03:40 KutABarE 8 15
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